本日は、当校に於いてどのようにニュース時事能力検定を活用して時事指導を行っているかということ、そしてその成果についてお話したいと思います。
■ニュース検定導入の背景・経緯
都立浅草高校は三部制・単位制・普通科の定時制高校です。幅広い選択科目の設置が求められ、全ての教科に独自科目があります。
時事問題については、多くの先生が現代社会や政治経済の授業内で指導されていますが、入試や就職などを考えると、どれ程の時間を割くべきか迷ってしまうのが現状だと思います。そのため、より柔軟に時事指導のできる題材を求めていました。
浅草高校には、「ニュース」と聞くと真っ先にジャニーズのグループだと思ったり、掛け算の九九も危ういような生徒が入学してきます。そのままでは卒業後に苦しむのが目に見えていますが、いきなり新聞やニュースを使った指導は難しいのが現状です。そんな時、東京都公民科社会科教育研究会の場でニュース検定の存在を知り、時事問題の見方を具現化して生徒に伝えることのできるツールだと直感しました。
ニュース検定の導入に際し、まずはN検セミナーで他校の事例を学んで持ち帰りました。N検は知名度も低かったため、導入の許可が下りるまで2年を要しましたが、東京都公民科社会科教育研究会出た「学校設定科目にしてみては」との意見も参考にして、2010年度、「時事ニュース検定」という授業の設置に至りました。
■学校設定科目「時事ニュース検定」
「時事ニュース検定」は半期1単位で、公民科の卒業単位として認定されます。授業は2時間連続、11月と1月に全員受検、初年度は2講座18名が選択しました。受講生には検定合格が単位の条件ではないと伝えてあります。N検に合格しないと単位を出さない、というのではなく、授業中に対する姿勢や日常の課題、テスト結果も含めて、全てで評価をします。
なお、受検は受講生以外にも学校全体に呼びかけましたが、残念ながら希望者はいませんでした。その状況を見た受講生たちは「来年度はもっと受検者増やそう」と言い、工夫してポスター作っていました。N検は役立つものだ、と受講生は実感しているようです。
■「時事ニュース検定」の指導
開講の10月から11月半ばまでの10時間をかけて、公式テキストを利用したテーマ指導を行います。一斉授業でテキスト基礎編の20テーマを可能な限り指導し、「ニュースとはこういうもので、このような見方がある」という大まかなところを掴ませます。
11月半ばから4時間は公式テキスト、月イチ時事サポートによる問題演習を行い、検定日は全員で4級を受検します。その後、合格者は次は3級を、不合格者は再び4級を目指し、12月は4時間全て級別問題演習を行います。1月は4時間をテーマ指導、2時間を公式テキスト、月イチサポートによる問題演習にあて、その後2回目の受検をさせます。
問題演習の時間、4級受検者に対しては個別指導を行います。問題集や月イチ時事サポートのミニテストを各自で解かせ、質問を受け付けます。その際、答えは見せずにテキスト本文と照らし合わせ、ここに書いてある、というのを出来るだけ自分で探し出せるようにして自信をつけさせます。一方、2・3級は、グループ協力型の指導になります。グループで問題に取り組み、疑問点をリーダーがとりまとめ、テキストと照らし合わせて確認します。
難易度の高い問題やテーマについては、各自の受検級に関わらず、私からクラス全員に向けて説明し、疑問点の解決を図ります。こうして2ヶ月以上続けると、はじめは斜に構えていた生徒も自然と集中して聞くようになっていきます。
11月の検定までにニュースの見方などはしっかりと教えますので、その後は徹底的に合格を目指すトレーニングをします。しかしあくまでもニュースの見方や世の中の見方を伝えるのがこの科目のねらいであり、検定に受かればよい、というわけではありません。12月・1月が問題演習ばかりになるのは、果たして公民科の科目として良いのかどうか、本当に迷っています。答えは見つかっていないので、ぜひ皆様のお知恵をお借りしたいと思っています。
■教材の活用
公式テキストは、幅広いニュースがとてもコンパクトにまとまっているので、生徒は解説を聞きながらキーワードを拾って理解していくことができます。願わくば、新聞記事との対応まで伝えられれば、とも思っていますが、まずはこのようにしてニュースの基本的な理解と定着を図ります。
また、演習にはあらゆるツールを活用しています。月イチ時事サポートは、テキストを補う豊富なネタが適度な分量で揃っていて、使い勝手が良いです。生徒には、これを参考にしながら関連記事を自分で探すように促します。多くの家庭が新聞を取っていないので、インターネット上のニュースや新聞記事が殆どで、限界ですが、それでも自分で探してニュース構造の理解が深まればいい、と考えています。
さらに、自宅でもニュースに触れるように、毎時間、学習事項復習のミニレポートを200字ほどで課題として出しています。テーマは敢えてその日扱ったことに限定します。まずは毎回取り組むことを重要視しているので、調べたことの箇条書きでも良いこととしていますが、テーマに対する自分の意見を必ず文章で書かせます。「臓器移植はやっぱり嫌だ」とか、「いや私は進んでドナーカード書く」などと。そして次の授業に、匿名で全員の意見を共有して振り返るようにしています。肌で感じていたものが身体に染み渡っていく、という風になればと考えています。こうして2ヶ月以上続けると自然と、まとまった意見を400~600字ほどで書いて提出してくるようになります。
■授業、ニュース検定の成果
こうして検定の結果も伴えばよいのですが、残念ながら合格者は4級18名中16名、3級は1名でした。この1名はリーダー格の5年生。生徒たちにとって、3級は大きな大きな壁です。テキスト学習や問題演習をしていても、「4級は読みこなせるが3級になると急に分からなくなる」「同じことが書いてあるが分からない」と言っていました。来年度の受講生20名には、ここをどのように指導していくかというのが私の課題の1つです。
N検取り組みの成果としては、受講生全員がストレートニュースレベルを見るようになったことが挙げられます。また、1,2名ですが、新聞の社会面の記事を切り抜いてミニレポートを書く生徒が出てきました。一番嬉しかったのは、毎日新聞の取材に対して生徒が家でご両親とニュースについて話したり、解説してあげるようになった、と応えたと聞いたことでした。
また先日、卒業直前の受講生に向けて特別授業を開きました。関東大震災の時、後藤新平と伊藤巳代治が東京の街について、復旧を目指すべきか復興を目指すべきか、と議論しました。今回の震災の報道を見て、目の前の復旧が先か、それとも100年先を見据えた復興が先だと思うか、卒業式の日に答えを出すように伝えました。結果、18人のうち10人がレポートとして提出しました。このように、自分で考え、意見を持てるようになったことが、半期の大きな成果だと思います。
■これからの課題
最後に、今後の課題です。東京都公民科社会科研究会でもいつも話題になりますが、評価のあり方についてです。現在は基本的にはやったらやった分だけプラス、ということにしています。しかしそうなると、明らかにおかしな意見もプラス評価になってしまいます。生徒のモチベーションの一つとしてどう評価を考えるか、とても悩ましく、まだ答えは出ていません。
また、検定自体の認知という点でもまだまだ課題があります。保護者もまだご存知無い方が多く、漢検や英検と比較されます。
このような状況を踏まえた上で、N検が生徒にとってより魅力のあるものになるよう、地道にやっていかなければ、と考えています。