N検ゼミ

――過去問で鍛える課題解決力――

 ニュース時事能力検定(ニュース検定、N検)を主催する毎日教育総合研究所は2021年夏、ニュース検定の過去問題を基にした新たな教材を開発し、学習塾と共同で特別講座を実施しました。その名も「N検ゼミ2021夏」。教材や講座の意義、ねらいについて、授業の様子を交えてお伝えします。

【村田泰博(毎日教育総合研究所)】

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 N検ゼミは2021年7~9月、横浜市戸塚区の学習塾「戸塚予備校ナレッジメイト」で実施しました。授業は1コマ90分、計5回。通塾する中学生らが参加し、講師は毎日教育総合研究所の村田泰博が務めました。

 次の画像は、N検ゼミのために開発したオリジナル教材の一部です。この単元は、初回の授業で使いました。

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 太枠の中は、過去に出題したニュース検定の問題を抜粋したものです。受講生はこの過去問を解いたうえで、ページ下部の問題に取り組みました。

 正解は①。全員が正解しました。本番のニュース検定なら、次の問題に進むところです。しかし、N検ゼミでは受講生一人一人に、「正解以外の選択肢は、どこがどのように誤っているか」を尋ねます。②と③は「選択肢はこのように書いてあるが、グラフのデータはこの通りだ。グラフの内容と矛盾するから誤りだ」ときちんと説明できました。

 ④はどうでしょうか。出題者が想定していた解答例は「選択肢のようなデータは、このグラフからは読み取れない」というもの。ところが、このような答案は誰からも出てきませんでした。受講生はみな、頭を抱えてしまいました。詳しく話を聞いてみると、②③と同様に、選択肢とグラフの内容が矛盾しているのではないか、と考えていたようです。矛盾点を必死に探すものの見つからず、お手上げ状態。講師が〝種明かし〟をすると、教室には驚きの声が広がりました。受講生たちにとっては想定外の答えだったようです。

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 本番のニュース検定の問題は基本的に、四肢択一のマークシート方式で出題します。ニュース検定では、このような問題形式であっても、「時事力」を構成する「思考力」や「判断力」を測り、養えるような良問を出題しています。その一方で、マークシート方式であるがゆえに、「なんとなく」選択肢を選んだとしても正解できるという側面があることも事実です。

 N検ゼミは「なぜ、その答えが導けるのか」という思考プロセスを重視した授業です。書き言葉や話し言葉での説明を受講生に求めることで、グラフや文章などの情報を正確に分析する力に加え、自身の考えを整理してわかりやすく他者に伝える力を高めます。

 別の日の授業では、次の単元を取り上げました。

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 新聞記事と会話文を読んで、関連する問題を解くという構成です。本来の過去問には四つの小問がぶら下がっていますが、今回の教材では割愛。会話文の内容を理解しているか、を問う小問だけを残しました。「#1:このデータはグラフから読み取れません」でご紹介した要領で、受講生には「正解はどれか」「正解以外の選択肢が誤っている理由は何か」を確認しました。〝意地悪な〟選択肢もなく、易々と正解できました。

 さて、本題はここから。新聞記事の見出しを考えます。空欄に当てはまる見出しを尋ねる小問は、本来の過去問にもあるのですが、それは四肢択一式です。教材には選択肢を載せず、受講生たちには自力で考えてもらいます。答案の一部をご紹介しましょう。

 「世界のコロナ対応 わかれる」
 「ヨーロッパ マスク問題」

 おおむね文意を捉えられています。ちなみに、過去問での正解は次の通りです。

 「ヨーロッパの一部でマスク義務化 これまでは敬遠」

 コロナ禍の「前後の違い」を強調した見出しです。

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 ニュース検定では、新聞記事や長文に相応しい見出しを選ぶ、という問題をしばしば出題します。なぜなら、「見出しは究極の要約だ」と考えているからです。見出しを作るには▽本文の内容を正確に読み取る▽本文のエッセンス(最も重要な情報・主張)を見極め、抽出する▽抽出したエッセンスを簡潔かつ明瞭に表現する――という手順を踏みます。学習指導要領にならえば、読解力や思考力・判断力・表現力といった、総合的な学力を試されるのが、見出し作りだといえます。ニュース検定では「見出し問題」を通して、こうした複合的な学力の一端を問うているのです。

 とはいえ、「マークシート方式のニュース検定では、総合的な学力を測り、養うことは十分にはできないのではないか」というご指摘もあろうかと思います。そこで、見出し問題の持ち味を生かしつつ、ブラッシュアップして作ったのが、今回のN検ゼミの単元です。

 付言すれば、「唯一の正解はない」ということも、この単元のポイントです。四肢択一式のニュース検定の問題には当然ながら、「唯一の正解」があります。しかし、現実社会ではそのようなことはほとんどありません。むしろ「正解のない問い」に溢れています。問いに対する答えは多種多様で、人それぞれで異なって構わない――こうしたことを、問題演習を通して受講生たちに体感してもらうことも、N検ゼミのねらいの一つです。

 授業で扱った単元をもう⼀つ、ご紹介します。

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 今回の過去問は、香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」(2020年3月成立)に着想を得た問題です。授業ではこれに加えて、ゲーム条例の制定や、同条例を巡る訴訟(「条例は憲法違反だ」として香川県内の高校生らが提訴)について報じる新聞記事も用いました。

 受講生たちはいずれも、ゲームが大好きな中学生。過去問を解き、新聞記事を読み終えた受講生たちからは一様に、条例に対して否定的な意見が聞かれました。ここで、講師からの問いかけです。

 「ゲーム条例には罰則規定がありません。それではなぜ、『1日60分』という目安まで示した条例が作られたのでしょうか?」

 考えるための補助線として、交通ルールを取り上げました。車両は原則、左側を通行する、というものです。これに違反すると、罰金や懲役などの罰則(ペナルティ)が科される場合があります。ゲーム条例との主な違いは▽法令の要請が「義務」なのか「努力義務」なのか▽法令に違反した場合のペナルティが規定されているか否か――です。

 ややあって、1人の受講生から、次のような声が上がりました。

 「意識を高めるため?」

 良い着眼点です。ネットやゲームの利用時間について各家庭での話し合いを促し、過度な利用による影響への関心を持ってもらうことが、ゲーム条例の意義の一つだといえそうです。啓発に主眼が置かれているため、義務(努力義務ではない)も罰則も規定されてはいない、ということになります。対照的に「左側通行」のルールは、人命や交通社会の秩序を守ることが主な目的なので、罰則つきの義務規定が設けられています。

 以上を踏まえて、更に問いかけます。

 「埼玉県では2021年5月、エスカレーターは歩かずに立ち止まって利用することを努力義務とする条例が成立しました。罰則規定がないこの条例が制定されたことについて、どのように考えますか?」

 このエスカレーター条例についても、制定を報じる新聞記事の切り抜きを参考資料として使いました。受講生たちからは以下のような意見が聞かれました。

 「エスカレーターでの歩行は危険だ。注意喚起のため、条例はあったほうがよい」
 「エスカレーターで立ち止まるかどうかはマナーの問題だ。わざわざ条例で定めるようなことではない」
 「条例に罰則規定はないので、条例があったところで歩く人はいなくならないだろう。条例に実効性はないと思う」
 「条例があることで、エスカレーターでの歩行に対して周囲の目が厳しくなる。エスカレーターで歩く人は減る方向に作用するので、条例に実効性はあると思う」

 〝社会のルール〟の目的や性格はさまざまだ――このような発見を、受講生たちは議論を通して得ました。

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 ニュース検定では、架空の場面(家庭、学校、地方自治体など)を設定し、そのフィールド内における議論や課題について考察する問題を出題する場合があります。具体的には▽ある論題に対する立場の違いに基づいて、会話文に登場する人物たちを分類する▽複数人の意見が対立した場面で、双方の主張を取り入れた最適解を選ぶ――といったものです。題材には、比較的最近のニュースを選ぶことが多いです。受動喫煙防止条例やプラスチックごみの削減について取り上げたこともあります。

 このような問題を出題するのは、ニュース検定が「時事力」を養うための検定だからです。時事力とは、現代社会のできごとを多角的・公正に判断し、その課題をみんなで解決していく礎となる総合的な力です。実社会おける課題解決のプロセスを疑似的に体験し、課題解決に必要なスキルや思考法を身につけられるような問題を出題しているのが、ニュース検定の特長の一つです。

 今回のN検ゼミは「社会のルールは何のためにあるのか」というテーマでした。他者との議論を経て課題を解決し、より多くの人々が納得できる社会を作り上げるには、ルールが必要です。

 ルールとは、ゴール(目指すべき社会)にたどり着くための道具です。道具を使いこなすには、その長所や短所を把握し、どのような使い方をすればどのような結果がもたらされるか、を予測できるようになることが求められます。道具(ルール)を主体的に使いこなして、課題解決のための力を鍛えてほしい――このような考えから、今回の単元を設定しました。

 N検ゼミの授業例やねらいをご紹介してきました。ここでは「そもそもなぜ、N検ゼミを実施したか」についてご説明します。

 2007年に始まったニュース検定は2021年、累計志願者数が50万人を突破しました。この間、検定問題や公式教材など、優良なコンテンツを提供してきたと自負しております。教育関係者から評価の声をいただくことも、しばしばあります。その半面、検定試験ならではの課題も浮かび上がってきました。受検者は合格に向けて一生懸命勉強するものの、受検し終えた途端、学びが止まってしまう――というものです。

 「ニュース検定○級合格」という目標に向かって努力するのは重要ですし、その目標は受検者にとって、大きなモチベーションになります。しかしながら、試験会場で問題を解き終えると、後は合否結果を待つのみ、となってしまう受検者が少なからずいるのも事実です。ニュース検定に限った話なら、それでも構いません。しかし、ニュース検定が掲げる「時事力」を養うには、絶えず研さんを積むことが肝要です。いわば「受検後のフォローアップをいかにするか」が、ニュース検定が取り組むべき課題の一つとなっていました。

 このような問題意識を背景として2021年度、ニュース検定は新たなコンテンツの提供を始めました。それが「出題のねらい」です。「なぜ、この問題を出題したか」を解説したもので、検定実施後に受検者限定で閲覧できます。「このようなスキルを身につけてほしいと考え、この問題を出題しました」「世の中ではいま、このようなニュースが話題になっています。関心を持った人は、さらに調べてみましょう」といった、ステップアップのためのワンポイントアドバイスです。

 「出題のねらい」と同様に、アフターフォローの充実を企図して試みたのが「N検ゼミ2021夏」です。「受検したら、それっきり」になってしまいがちな検定問題の活用方法を研究した結果、たどり着きました。もちろん、N検ゼミは事例の一つに過ぎません。ニュース検定のコンテンツは、利用者の数だけさまざまな活用方法が考えられますし、そのようなポテンシャルを秘めていると確信しています。我々も各位の学びの一助となるようなコンテンツを、今後とも提供していく所存です。

N検ゼミ2021夏の授業風景=横浜市で8月

 受講生たちからは、以下のような感想が寄せられました。

 蛇足ですが、授業ではオリジナル教材に加えて「2021年度版ニュース検定公式テキスト&問題集『時事力』基礎編(3・4級対応)」を副読本として用いました。また、特別講座の一環で受講生全員が、第54回ニュース検定(2021年9月実施)の4級を受検しました。公式教材や検定試験に関するコメントも、合わせて掲載します。

 「授業では一つ一つのことがらを丁寧に教えてくれて、わかりやすかった」
 「議論をしながら楽しく学ぶことができた。授業の内容がよく頭に入ってきた」
 「ゲーム条例の単元は身近なテーマだったので、いつも以上に真剣に取り組むことができた」
 「授業をきっかけに、ニュースを見ることが増えた」
 「社会科の授業はこれまでも好きだったが、さらに好きになりそうだと思った」
 「ニュース検定の教材は、受検するうえでとても役に立った。(教材に収録されている)練習問題に取り組んだので、本番ではスムーズに解けた」

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 最後に、N検ゼミ2021夏を共催した戸塚予備校ナレッジメイトについて、ご紹介します。

 ナレッジメイトは横浜市戸塚区の学習塾で、塾長は、塾生や保護者からの信頼が厚い森谷太輔(もりや・たいすけ)先生=写真・本人提供=です。森谷先生はかねて、「当塾は学校の授業の補習や入試対策にとどまらない、長期的な学力の醸成を目指している。そのための独自色ある教育メニューを塾生に提供したい」と話していました。N検ゼミの趣旨に賛同してくださったことに加えて、以前からニュース検定の団体受検を実施されている縁もあり、共催する運びとなりました。

 全5回の授業後、森谷先生からは「受講生たちが休憩時間中、最近のニュースを話題にするようになった」「英語など社会科以外の授業でも、質問することが増えた。物事に疑問を持ち、自ら考える姿勢が身についてきた」とN検ゼミの効用を評価していただきました。

 N検ゼミで用いた教材の一部を公開します(#1~3で紹介した単元以外の箇所も収録しています)。