立命館中学校・高等学校の神野と申します。
よろしくお付き合いの程お願いいたします。
■導入のきっかけ 「現代社会システム」授業
7年程前、本校ではカリキュラム改訂を行ない、新たに独自科目「現代社会システム」を設置しました。週2単位、2時間連続の授業です。本校は高1で「政治・経済」が全員必修(2単位)となり、高2で文系と理系に分かれるのですが、当授業は高2文系のなかでさらに選択を希望した生徒が受講する科目です。受講人数は平成20年度48人、21年度52人、毎年大体50名前後集まります。教室は、大学の大講堂のようなところを利用しています。
■「知らないことは罪である」
資料にはシラバスを抜粋して載せました。ご覧いただいているとおり、当授業では、「知らないことは罪である」というテーマを掲げています。これは少しショッキングな言葉かとも思います。この科目を置いた当初はなかったのですが、載せるようになったのにはこんな経緯がありました。
科目設置当初より、この授業は、様々な分野の問題を一つ一つ大きく深く掘り下げて、映像を見たり、文章を書いたり、またそれを踏まえて討論をする、という形態をとっています。こうして授業を進めているうちに、あることに気付きました。それは、生徒は取り上げた一つテーマについて驚くほど詳しくなり、素晴らしい文章もたくさん書いてくれるのですが、それに関連する様々な事項に対する知識が欠落し、特定の部分でだけしか語れない、という事態になることでした。また、実感されている先生方もいらっしゃるかもしれませんが、例えば、普段のホームルームなどで「○月×日までにこのペーパーを提出しなさい。締め切り○月×日だよ」と話します。すると、期日までに提出しない生徒が出ることがありますが、話をきくと彼らは「そんなの知らなかった、聞いてなかった」という風に言います。そのときの表情はまるで「僕は私はまったくイノセンスですよ、知らんかってんから当然じゃないですか」という顔であり、「知らない」ということを誇らしげに言う傾向があります。しかし、それは違うのではないかと思うのです。これは、「世の中には様々な出来事や問題があって、僕達がそれを知らないだけである。知らなかったら自分にとっては存在しない。存在しなかったら考慮する必要がないのだ」ということになる発想です。最近では携帯電話をはじめ情報機器が発達している背景もあり、若い生徒達は自分以外の人と積極的につながっていこうという意欲がどうも欠けているのではないか、どうにか打開できないだろうか、そんな思いも持っていました。
■二の足を踏んだ「検定」実施
そうしたなかで、平成19年にニュース検定のことを知り、この授業で使えないだろうかと考えました。本校では英検やTOFELなども実施していますが、生徒にしてみれば「検定か、また試験か、、。」とモチベーションが下がる例もありました。それを考えて二の足踏んでしまったのですが、とにかくまずは自分でやってみようと考え、平成19年度に自分で受検しました。合格対策の勉強をしているうちに「これはひょっとして使えるかも」と実感しましたので、平成20年度に授業で団体受検を実施することにしました。すでに年間授業スケジュールは決まっており、受検対策の時間を特別にとることはできなかったので、直前に少しだけ対策講座を開きました。生徒達は主には4級、希望者のみ3級を受検したのですが、結果ほとんどが合格してしまいました。びっくりして生徒に話をきいてみると、「先生、4級は簡単やった。すぐにとれるよ。だからこれ、もう一回あったら、もう一つ上の級にチャレンジできるねんけど」とのこと。そうかそれならば、と平成21年度は春と秋の2度、検定を実施しました。今度は授業でも検定の前に若干N検対策の時間をとりました。具体的には、テキスト全文を網羅することは不可能なので、各分野で特徴的なトピックを教員がチョイスして少しずつ解説し、こちらで用意したワークシートに取り組ませるという形式で行いました。また、公式問題集から抜粋した問題でテストを作成し、検定直前に「模試」としてトライさせました。模試の結果と検定結果は成績に反映させることとし、インセンティブをつける工夫も行いました。すると、受検の結果はほとんど合格。秋の回では、2級に挑戦したいという生徒が7人出てきたのですが、授業での解説は大多数が受検する3級向けにならざるを得ないので、「基本的には自主的に勉強してもらうことになるよ」と話しましたが、7人ともが受検し、全員合格。自信にもなり、とてもやる気が出たようで、また今度は1級を受けたい、と話しています。
■授業を広げ、深めたN検
このように、導入のきっかけや経緯としては「おそるおそる」でしたが、実施してみたところ、思っていた以上に生徒はやってくれました。「現代社会システム」授業で定めたねらいは「一つのテーマを深く議論する」ということでしたが、生徒はN検を通して、さらに関連する事柄に対して興味・関心を持ち、それも自分で調べ、自分の意見を形成していく、という姿をみせるようになりました。ここまで波及してくるのものかと、私もびっくりしています。
また、これも驚いたことに、テスト後や年度末に生徒に書いてもらうアンケートを見ていると、ニュースへの関心が非常に高くなったことがわかるのはもちろん、家でも親子の会話が増えたという記述が出てくるようになりました。以前は親がニュースについて話をしてきても右から左に流していたけれど、「いや、これはこうなんだよ」と話を返し、会話が増えたというのです。また、ニュースを知ることが楽しくなった、世の中の色んなことどうなってるのかなと思うようになった、などという話も出てくるようになりました。
さらに、学力というものをどう定義するかは人によって違うと思いますが、「この検定とこの勉強はあなたの学力形成に寄与しましたか?」という質問に対して、ほとんどの生徒が「大いに学力に寄与した」「勉強をやっているという実感を持てた」と答えてくれました。授業をしている人間としてはこれ以上ないくらいに嬉しい評価をしていただいています。
■現在の課題
課題としては、授業のなかで公式テキストの内容をもう少し深く追っていこうとすると時間の確保が難しい、ということがあります。公式テキストだけをやるとなると「現代社会システム」授業の本旨から外れてしまいますから、年間授業日程の中でどうやって時間の折り合いをつけるかが悩みどころです。ですが、N検実施の効果は非常に高いと確信を持っているので、どういう形であれ続けていきたいと思っています。
また、現在はこの科目を選択している生徒だけが全員受検という形でやっていますが、この科目・教科以外のところ、例えばキャリア教育の流れの中などでも活用していければと思います。「○級合格」という肩書きを求めての検定取得に走りすぎてしまうことなく、生徒に広がっていけば良いなと考えています。
■ディスカッションを深める効果も
また、この授業では、教員が設定するテーマに沿って討論-ディスカッションも行います。ニュース検定には、このディスカッションの効果を高める働きもあります。
ちなみに、討論にはディベートという手法もありますが、様々なご意見あるなか、個人的にはどうかなと思うところがあります。ディベートを実施するとどうしても、こちらがどれだけ気をつけていても、生徒の目的が相手側に勝つことに走りがちで、相手の指摘によって「あ、そうだったんだ。自分の意見変えよう。」という風になりません。ですが、世の中「白か黒か」と判断できない問題が圧倒的に多いなか、他人の意見を聞いて「なるほど、そういう意見もあるんだ」と自分の考えが変わっていくということが何度もあって良いし、その繰り返しのなかで最終的に社会としての一つの合意形成ができるのではないかと思います。さらにディベートは若干テクニックに走るきらいもあります。
こうしたわけで授業ではディスカッションを実施していますが、時間的制約など様々なことを考えると、できるだけ深い討論をするためには、まずもって幅広く様々な分野の色々な問題を知っておき、その中で自分の関心に沿いながら深く問題を追求していくことが重要だと考えます。
また、私たちは生徒が自分自身で問題を発見することが重要と考え、出来るだけ教員から考えるテーマをメニューとして生徒の目の前に並べすぎないようにしています。自分で問題を見つけるためにも、色々な分野の時事知識が必要だと考えています。そうした意味からもN検の取り組みは素晴らしいと思います。
■社会にコミットする姿勢を育みたい
生徒には、ニュース検定の受検を通して、世の中の色々なこと知ってほしいと願っています。世の中の仕組みを理解し、誰がどこで何をしているのかを知ることで、自分は自分以外の人と、あるいは社会と繋がっていることを思い知り、ハッと気付かされ、社会に溢れる問題に自分からコミットしていく、ということにが可能になっていくのではないかと考えています。
もしN検の実施をお悩みの先生がいらっしゃるようでしたら、ぜひ取り組まれることをお勧めします。ありがとうございました。