都立蒲田高等学校・宮崎と申します。ニュース検定協会の方とは違った観点での話となるかもしれませんが、本日私からは「普通の教員が簡単に出来るニュース検定」のお話ができればと思います。
まずはじめに、社会科の先生が多いと思うので聞いてみたいのですが、今日カバンの中に新聞が入っているという先生方、いらっしゃいますか?また、午前中にもう新聞を全部読んだという方は?、、ありがとうございます。私も仕事が朝早く、夕方から夜にかけて新聞を読みますが、なかなか全部読めないのが本音です。でも生徒には新聞を読んで欲しいので読みなさいと言うのですが、まず読みません。調べてみると、新聞の文字の量は大体20万文字(新書2冊分)が詰まっているらしく、その情報量はあまりに膨大です。ただ、生徒に新聞を読ませたい、社会のこと世の中のことをわかってもらいたい、そういう思いは私たち皆が共有しているものだろうと思います。
私は公民の授業を担当していますが、その目標とするところは、大きくいえば「民主主義教育」、生徒に言うなら「私たちの社会なんだから選挙に行こう」ということです。学習指導要領でも「社会参画」という言葉が強く叫ばれていますが、まさに社会に参画するために、ニュースや世の中のことを知るというのはとても大切だと考えています。
■エンカレッジスクールでの学び
私の勤務する都立蒲田高校は、東京都で5校指定されている「エンカレッジスクール」です。エンカレッジスクールとは、「勇気づけ、励まし、支援して、学び直しの出来る学校」です。これまでの勉強に大きな挫折感を覚えている生徒や、不登校など様々な事情を抱えてきた生徒も多く通っています。入試は作文と面接で実施し、30分授業や少人数クラス、また定期テストではなく小テストをたくさん重ねて評価をつけるなど、工夫を施した仕組みで基礎学力の定着を図る学校です。
私の担当するクラスにも様々な生徒がいますが、世の中に対して関心がない、あるいは知りたいけど知れない、勉強もしないしできない、という生徒が多くいます。まずは「楽しい授業」を、そして「役にたつ授業」を追求し、聞くだけではなく話し合いの場を設けたり、新聞記事のまとめを発表させたり、テストには関心のあるニュースを書かせるなど、色々と取り組んできました。しかしながら、いまいち大きな手応えを感じられずにいたところ、ニュース検定に出会いました。
自信を持たせることが第一歩
本校のニュース検定導入のねらいをまとめると、①「世の中(社会)に関心を持たせたい」、②「多面的、多角的に社会のことを考えさせたい」、③「考え、判断できる大人を育てたい」、そして④「生徒に自信を持たせたい」、この4点です。①は大前提だとして、②③に関しては、全員社会人になったとき、自分に必要なことをだまされずに自分で考えてられるようになってほしい、という思いです。そして④。多くの生徒が中学時代に心に傷を負い、なかでも勉強に対しては心に壁を作っているので、とにかくまず自信を持たせることこそが社会に目を向けさせる第一歩ではないかと感じています。
こうした思いをお持ちの先生方も、ニュース検定の実施となると二の足を踏むというお気持ちはとてもよく分かります。しかし、実施して感じたのは、やってしまえば良いのだ、ということでした。これまでの流れを変えることは勇気がいりますが、例えば生徒を叱るとき、「今すぐにやりなさい、すぐ変えなさい」と言いますよね。それに対して生徒が「明日からやります」とか「色々と人間関係とか立場とかいうものがあるのでいつか頑張ります」などと言っても、認められません。ニュース検定についても、今から変えるために今動いてしまうということをぜひお勧めしたいと思います。
社会への関心を高め、学び進める生徒たち
具体的には、担当の高3政治経済のクラスで、授業にニュース検定の素材を少しずつ取り入れることから始めました。「N検」と構えずに、授業の終盤やテスト返却後10分余った時間にN検のミニテストをやってみたり、あるいは授業の導入にしてみたり、色々な時間で利用しました。ミニテストは、スタートのハードルを下げて全員で5級に挑戦させ、さらに意欲を持った生徒には4級を渡しました。検定受検に関しては、検定料がかかるので強制とはしません。ですが、単位取得の条件である卒業論文(レポート)の提出を、N検受検で置き換えることができる、としました。世の中のことを知るための授業なので、社会問題についてレポートを書かせるわけですが、N検は社会のことを調べて学ぶこととなりますから、もう一本の評価軸とすることができます。はじめ、生徒は卒業論文が面倒だからN検を受検する、という形で集まってきましたが、驚いたことに、N検受検を選択した30人のうち20人が、最終的には卒業論文も書きたいと言い出し、取り組むこととなりました。N検が、生徒の社会的関心を高める刺激になった証しだろうと思います。
ニュース検定導入の4つの効果
本校でのニュース検定導入の効果をまとめると、4つになります。
まず1つめは、「社会的事象への関心の増大」です。授業の参加や発言の頻度からも見て取れますし、また「それニュースでやってた」など、これまでニュースを見ていなかった生徒が今は見ていることがわかる発言が増え、変化を肌で感じました。また、AO入試や指定校推薦の作文で出る「最近気になっているニュースは?」の問いにも、N検を通してきちんと答えられるようになった生徒も出てきました。
そして2つめは、「上位層が刺激され、学習への満足感が高まる」ことです。通常の授業というのは、どうしても「真ん中」に視点がいきませんか。全体として勉強が苦手、それなら楽しくおもしろい授業を、と進めていくと、勉強ができて向上心を持って取り組んでいる生徒の知的欲求まで必ずしも十分に満たしきれないのが現状です。こうした生徒が、ニュース検定に食いつき、満足してくれました。ニュースや世の中にはゴールがないので、一度理解したと思っても、「じゃあこれはどうなっているんだろう?」「このことは、こっちと繋がっているのかな?」と、新たな疑問と発見が連鎖的に生まれ、もっと勉強していくことができたようです。上の層への刺激は期待を上回る効果があったと思います。
3つめは、「挑戦する生徒の現れ」です。担当クラスのなかで、特別に勉強ができるような目立つ存在ではなく真面目でおとなしい生徒が、3級受検を希望しました。難しすぎるのではないかと心配し、まずは5級からと勧めたのですが、自分はこの検定の3級に挑戦するんだと意気込み、宣言し、私のところへいつも問題集を借りに来るなどして一生懸命に取り組みました。結果は不合格、しかし、あと2問正解で合格というとても惜しい点数でした。次の検定は学校で団体受検を実施できない予定だったのですが、彼は再チャレンジに意欲を燃やし、「自分で一般会場に行って受検する」と言ってくれました。生徒にとっては、N検は私たち教員の想像を超えた体験となり影響があることなのだと感じ、やってみてよかったと思いました。
最後の4つめは、「学校が活性化する」ことです。本校でのニュース検定受検の様子がたまたま新聞で取り上げられたので、教員室にその記事を貼ったところ、他教科の教員がそれを読み、「では国語科は漢検に力を入れようか」とか、「3年生がこれだけ頑張っているのだから2年も頑張ろう」と生徒を鼓舞するなど、教員間の刺激にもなりました。また、新聞に掲載されてから1週間ぐらい経ったある日、私のもとに無記名の手紙が1通届きました。「最近の蒲田高校は変わりましたね。新聞を読み、こうして頑張っている生徒を知り応援したくなりました。」という地域住民の方からのお手紙でした。一時期は周辺の方々となかなか良い関係を築くことが難しかっただけに、本当に嬉しいものでした。学校が変わって、地域も変わっていく。こうした観点からも、ニュース検定は大きな影響があったといえます。
それぞれの目的を設定して、みんなが実施できるN検
ニュース検定導入当初、私は、通常の「授業」と「世の中」の間をニュース検定がつないでくれるだろう、と思っていました。しかし、最近感じるようになったのは、「世の中」と「ニュース」は一緒であって、そこに私たちの「授業」をあわせていくことが必要なのではないか、ということです。教科書に書かれていることはもちろんなのですが、これから生きていくために必要なことを生徒に伝えていく必要があるとしたら、70単位分の1時間でも2時間でも使ってニュースを取り入れて生徒を刺激することは、とても良いことだと感じています。
また正直、ニュース検定を教育困難校で実施するのは無理なのではないか、というのが1年前の私の本心でした。しかし、N検は、目的やねらいをどこに設定するかによって、どんな学校でもどんな年代でも実施ができる、ということがわかりました。蒲田高校の場合は、「センター試験や英語小論文のために3級を」などとしてN検は使いませんが、「生徒に自信を持ってもらうために5級を」と考えます。学校によって、先生の考えに沿った、色々な利用の仕方があるのだと思います。
これからの時代を生きるには、単純な「知識」だけでなく「情報」が重要です。「情報」には「information」のところと「intelligence」のところがあります。この「intelligence=知恵」を高めるためには、情報を「分析する力」が必要であり、これが、大人になったときに最も求められている力であろうと思います。ニュース検定は、4択の問題が○か×かというだけではなく、一つ一つ、先生方の力、授業の力で、いくらにでも大きな目標や学びにすることができるのかなと思っています。
先生方も、ぜひ気軽にニュース検定を実施されてみてはいかがかと思います。
ありがとうございました。