N検イベント

時事指導とN検の活用

東京都立富士森高校 教諭 篠田健一郎先生

 東京都立富士森高校の篠田でございます。入都は社会科「政治・経済」で、主たる担当科目は「現代社会」「倫理」「政治・経済」です。現任校の東京都立富士森高校は、全日制普通科都立の中堅校です。生徒のほとんどは八王子の市内だけで生活が完結するような世界に生きています。8割以上が地元在住のためか、目を外に向けることが少ないようです。このようにローカルな雰囲気の学校ですが、検定がスタートした07年度の第1回より実施しています。

■N検導入の意義

 N検導入の意義は3つあると考えています。1つは「生徒の主体的な学び」です。学習指導要領の文言にもありますが、これを進めることができるのではないかと思ったことです。自分で受検を決意し、自分で勉強して合格することが、大学進学後のさらなる学習の基礎になると考えました。2つめは、生徒の自立的なキャリア形成に資するものになるのではないかということです。学校教育とは異なる基準で自分の力が評価されることは、自身の存在や生き方に自信を持つことにつながると考えたからです。3つめは、基礎基本の充実が図れるのではないかということです。教科教育の基礎基本の習得(知識の習得)と、新聞などを読んだりして自分で考える力(習得した知識の活用)の両方がN検合格には必要です。これらは大学に進んで探求し、社会に出て問題を深めていく際の力になるのではないか、という以上3点を最終的には強調したいわけです。

 そこに進むプロセスをお話して、なるほどと思っていただければ幸いです。私と同年代の先生であれば、新しいことに飛び込むことは怖いですよね。しかしながら生徒からすると、また違った考えがあると思います。生徒はその先生に1年間を賭けているわけですから、それに応えないといけませんね。もちろん知識注入型の授業があってもいいでしょう。時には脱線する授業があってもいいでしょう。例えば「検定目指してやってみない」というのも、大きな奨励になると思います。そうしたことに失敗はあり得ないですよね。先生方が一生懸命取り組んだことは生徒の心を動かします。時には5人しか志願者がいない時もありますから、それでもこつこつ続けていくことが大事だと考えています。

 N検を導入することは若い先生にはもちろんプラスですし、ベテランの先生にもマイナスではないと思います。もちろん、その先にあるものは、中学生、高校生、大学生の生き様そのものですから。彼らにとっていいことを提供する、私たちの大事な使命だと思います。

 検定受検の強制は公立学校なので無理ですが、意識付けが大事だと考えています。生徒にとっては、N検なんて受けなくたって何でもないですから、キャリア教育の視点で「自分の能力をためしてみよう」とか、「学校以外の物差しで自分の力を強化してみないかとか」、「自分の持っているものを最大限引き出して付加価値つけて売り込むためにはどうする?」みたいな話をするわけです。

 こうした話の中で私が重要だと思うのは、一種の経営学の視点です。経営学は組織論と戦略論だと考えられます。この中にも、管理職を目指している先生がいらっしゃると思いますが、自分の学校の施設や教員、生徒を動員して学校の付加価値をどのように高めていくか。こういうことは管理職の先生には重要な課題だと思います。ここは教員に一番欠けているところですよね。そういうのが苦手だから教員をやっているわけですから。管理職だから考えろと言われても、なかなか考えられないわけですよね。

 実は授業の中でも、この視点は必要なのです。たとえば、ある生徒は社会科が得意だとします(不得意な人に強制する必要はありませんが)。それを自分の「売り」にしたいとします。そこで大学入試の面接で、社会が得意だと言っても、「へえ、そう」で終わりですよね。でもN検2級とりましたと言えば、これは違いますよね。そういうところで、自分がいいと思ったことを、第三者に測定してもらって、これだけのものがありますと売り込むことができる。こうした話がおのずと授業の中で出てきます。そこで、共鳴した生徒が受けるわけです。

■授業と時事的事象の取扱いや、授業とN検の関係

 普段の授業自体は時事問題の取り扱いを多くしているわけではありません。多くの公民科の先生方と変わりません。授業の進行に合わせて適切な時事的事象(資料集、新聞記事やテレビ番組)を扱っています。また、導入、展開、まとめなど、それぞれの場面で適切な時事的事象を取り入れています。課題としては、授業の進行にあった時事的事象があるとは限らないことです。

 知識注入のあまり面白いとは言えない授業もしなくてはいけません。そこで、PCを使ったシュミレーションソフトを使ってみたり、ワークショップ入れてみたり、いろんな仕掛けをするわけです。公立学校は強制するわけにはいかないけれど、自分のやろうと思ったことはやってごらんよと仕向けることはできますよね。そこは先生方の授業のチャレンジ次第です。日本史と政経を一緒の学年でやっているのであれば、日本史で使える資料を使うことも大切です。

 授業とN検の関係ですが、N検の意義を説明しながら積極的に紹介をしています。検定がスタートした07年度の第1回から挑戦していますが、受検者は5人くらいの時もあれば、多くて20人くらいの時もあります。生徒には、合格することが目的ではなく、合格しようと思い、努力する過程に価値があると話しています。

 全体的な傾向としては、6月と8月は3年生が中心になります。11月と2月は、2年生が中心になっています。こちらの課題としては1年生の時から受けさせたいのですが、なかなか意識は高まらないのが実情です。それでも、今年は1年生が受けることになりました。少しずつ生徒の意識も変わってきていると感じています。

■生徒は受検を通じて、一回りも二回りも成長する

 公式サイトに本校生徒の合格体験談があります。3級に合格した女子生徒が「ニュース時事能力検定を受けようと思って金額を見たらびっくり仰天。結構いいお値段じゃありませんか」なんていうのを平気で書いています。彼女は理系なのに、時事的なことが好きなのですね。彼女の個性がそのまま出ています。

 こつこつやるタイプの彼女は「試験のはずなのに解いていてうれしくなりました」とも書いてくれています。これは本物に触れたからですよね。「新聞って読み始めるとハマります。読み始めると面白くてとまらない」と最後に締めくくります。自分で勉強して物事の本質に迫った発言だろうと思います。受検を経験すると一回りも二回りも成長する生徒の姿があります。N検を受けたから成長したのではないと思うのですが、いろんな仕掛けを私たちが取り組むことによって、ただ単に授業をしていただけでは成長できなかった生徒が刺激を受けて成長したと思うのです。

 いずれにせよ効果が実感できるには時間はかかります。3級までは破竹の勢いですが、2級はなかなか合格できません。同じような思考パターンに陥るのです。僕の言った授業のことしか聞かず、自分で考えて勉強しないのです。だから僕と同じ思考回路にはまって、みんな同じような所で間違えます。私たちが知識を伝えて、その先を考えてくれというところまで行っていないというのが、現状分析です。

■合格した生徒は授業を大事にするようになる

 先程も申し上げましたように、生徒は自分から受けようと思って勉強して合格していくわけですから、生徒自ら勉強するということでは主体的な学びになります。

 キャリア教育についてですが、新学習指導要領ではキャリア教育がきちんと明記されましたから、大手を振ってできますよね。新学習指導要領のお墨付きを得たわけですから、他の教員の誹謗中傷は受けません。生徒の実質的なキャリア形成は大事なのだとはっきり言えますからね。N検は学校教育とは違った基準で、自分の力が評価されます。生徒にとっては、自分の存在や生き方に自信を持つことになります。すごく大事なことだと思います。私たち教員は生徒に「私たちは偉いのだ」と教え込んでしまう。決してそんなことはないのです。同じ人間として同じ土俵にのっている。でもちょっとした刺激だとか、サゼスチョンはできます。そういった点でも、生徒にとってとても大事な経験になると思います。

 決して無理な級に背伸びをして受けさせているわけではありません。N検に受かった生徒を見ると必ず授業を大事にしています。授業を大事にしないまでも、教科書をきちんと読んで自分なりの勉強をきちんとしています。さらに新聞を読んだり、テレビを見たり、雑誌を読んだりして、自分の力をつけています。その付け方はさまざまです。

 結局、知識の習得とその知識を活用している生徒でないと受からないのだと思います。これも指導要領の精神、修得、活用、探求の実践例として評価できるところだと思います。

 最後に教員の皆さん、自信を持ってN検をやってみませんか。プラス思考で、いろんなチャンスを生徒に示して、私たち自身も高めていきたいと思います。問題を見るとさすがに新聞記者が作った問題だなというのもあると思います。私だったら出さないなというのもあるかもしれません。いろんな目が生徒を取り囲むことによって、生徒は伸びるはずです。それを信じて頑張ってみませんかというお話でした。