兵庫県立飾磨工業高等学校の山名と申します。09年6月に初めてN検を実施しました。今回、N検を導入するまでと、実際に導入してみての感想や今後の展望も含めた報告をしたいと思います。
私は教壇に立つようになって14年目で、専門は世界史です。工業高校なので工業系の先生が多く、地歴公民科は3人で担当しています。そのため今年は世界史、来年は現代社会を担当する予定です。
本校の特徴として、全日制(5学科、588名)と、あまり聞き慣れないかもしれませんが多部制(従来の定時制を、昼間にも広げたもの。1学科で1・2部276名、3部280名)の多様な学びができる併設校です。全日制は約8割の生徒が就職し、約2割の生徒が大学・専門学校などへ進学します。
また本校は工業高校ということもあり、検定取得や部活動もさかんで、NIE実践校(4年目)でもあります。
■N検導入の障害となる4つの「カベ」
私は地歴公民科の教諭として、教科の内容と実際の社会(国内外の情勢)を関連づけて学ばせたいという思いから、以前より新聞の関連記事の切り抜きを活用したり、定期考査で時事問題を出題(資料1-①)したりしてきました。今年の5月に出題(資料1-②)したものは、4択にするなど、ややN検を意識したものにしてみました。もちろん、記述問題も出題しますが、4択だと生徒もクイズ感覚で取り組めますし、N検受検への準備にもなります。
またNIE実践校となってからは、新聞とのつながりを深めていこうということもあり、長期休業中の課題として新聞スクラップなどを課題としました。あらかじめテーマを決めて、そのテーマに沿った新聞記事を3日分以上切り抜いて、そこからわからないことを調べたりして、レポートとしてまとめるよう指導しています。
こうした成果を具体化し、さらに時事に関する興味・関心を広げ、資格取得や進路でも有利となるN検は「一石何鳥」にもなる可能性を持つと考え、今年度初めて本校に導入することにしました。
前年度から準備を進めてきたのですが、実際に新しいことを行う上ではいくつかの「カベ」も存在しました。主なものは(1)社会科ぎらい、(2)他の検定、(3)指導体制、(4)部活動や補習です。
まずは(1)ですが、工業高校の生徒にとって理数系科目の対極にある社会科は「暗記ばかりでよう覚えきれない」というイメージが定着し、「社会科は嫌いや」という生徒が非常に多いことです。N検をきっかけに、社会科を好きになってもらえればという狙いの前に、この「社会科ぎらい」が大きなカベになります。
(2)については、他の検定の存在は一見矛盾するように思われますが、新しい検定が入り込んでいくには大きな障害となります。工業系の検定のほかにも、英検や漢検といった実績のある検定も実施されており、生徒が目標としやすい検定の影に隠れてしまいがちです。
(3)についてはある程度規模が大きく、かつ工業系の先生が多い学校の中で、普通科のしかも新しい検定の導入に、多くの先生の協力を得て指導体制を確立することは容易ではありません。
(4)については部活動がさかんな学校だけに、その学習時間の確保が最大のカベとなります。
■他の検定に負けないN検のメリットを、生徒へ積極的にアピール
そこで、N検を「身近なもの」に、またN検の「魅力」や「特典」をアピールすることから始めました。まず、2月から「進路ニュース」への掲載を始めました。就職試験でも筆記や面接などで時事知識が必要で、大学進学希望者にも入試で優遇される大学が多いことをPRしました。
また、3月には新2年生と新3年生に向けた春休みの課題として、直近2回分のN検問題を課題の一部として出しました。これは以外と効果が高かったようです。やはり論より証拠で、口で説明するよりも課題として1回解かせてみることで、興味を持つ生徒が現れるようになりました。
4月には、新1年生も含めて「N検のすすめ」(資料2)や「受検案内」の全員配布を行いました。「N検のすすめ」は、前述の「進路ニュース」の記事を少し修正したものです。実際に就職試験で出題されたものと、N検問題がよく似ていることを説明し、就職試験や入試で役立つことを、アピールしました。
さらに社会科教室前にある掲示板を活用することにしました。その掲示板にN検コーナーを常設し、過去問やポスターの掲示を行いました。すると、以外に生徒は「何だろう?」と立ち止まって見ていくようになりました。これも意外と効果が高かったのかなと感じています。
まだ知名度が低いN検は、先生がメリットを積極的に訴えていかないと、なかなか生徒は動きません。しかし、魅力を継続的にアピールすることで、生徒の意識が確実に変わってくることを感じました。
■N検の意義や効用をより多くの職員と共有して、大きな教師間の協力体制をつくる
次に、実際に実施することになれば、他の先生方の協力がなければ成り立たないわけですから、先生方にN検を理解してもらうことに注力しました。まずは前年10月の教科会議で、実施の協力を提案することから始めました。さきほどお話した生徒への取り組みも、私一人では出来ませんので、他の地歴公民科の先生方と連携しながら進めました。
新年度に入って、いよいよ実施が見えてきますと、実際に生徒と接する担任の先生や学年の先生方にも、5月の学年会議で提案をしました。さらには、先生用に作成された「N検ガイド」を職員会議で、全員に配布しました。N検の意義や効用を全ての先生方に共有していただくことで、少しずつですが理解と協力を得られるようになったわけです。また、多部制の先生方とも連携し、全日制だけではなく多部制の生徒も巻き込んでいくことができました。こうした経験から、大きな教師間の協力体制をつくることが、新しいことに取り組むときには大切だと感じました。
■部活動で多忙な生徒のために、朝補習を実施
いよいよ志願者が集まり、本番の検定が迫ってきました。新しい取り組みを始めるわけですから、合格率という実績を出すことで、今後につなげたいと考えました。部活動で忙しい生徒にとって、学習時間をどう確保するかが課題ですので、通常より1時間早く登校してもらい、朝補習を実施して合格者を増やそうと考えました。
募集の締め切りから検定まで1ヶ月しかないうえ、新型インフルエンザによる休校なども重なり、補習は5月から6月の間で8回(1回60分)しか確保できませんでした。もちろん、公式テキストを8回の授業でカバーすることはできません。生徒には事前に指定したページを、自宅でしっかり読み込んでくるように指導しました。
しかし、これを読むだけでは生徒の頭から「右から左」となってしまうので、指定範囲の演習問題も渡して、これを解いてくるように指導しました。補習では、この演習問題の解答と解説を行い、テキストの重要ポイントをおさえつつ、生徒の質問に答えていくというスタイルとしました。初めて受検する生徒に、「学びやすい時間や学習スタイル」の提示できたことは、とても有効でした。
■夜間の生徒の受検者も含めて94.6%の合格率
実際の検定ですが、本校では全日制の生徒35名が4級、多部制の生徒2名が5級を受検することになりました。中でも嬉しかったのは、3部(夜間)の生徒が2名参加してくれたことです。多部制にも呼びかけてよかったなと思っています。当日は、検定の様子を毎日新聞社が取材して、翌日の新聞に掲載してもらいました。生徒は新聞に載って嬉しかったようです。
検定成果ですが、合格者は4級が33名、5級が2名の合格率94.6%と上々の出来で、生徒は本当に頑張ってくれました。検定後にはアンケート(全日制のみ実施)も実施しましたので、その結果もご紹介します。まず、「今回の手ごたえは?」という問いに、「できた」が14人、「まあまあできた」が18人、「あまりできなかった」が3人で、合格率を裏付ける内容でした。
嬉しかったのは、「今後チャンスがあれば、また受検したい」と思う生徒が30人いたことです。中には「上位の級を狙いたい」と答える生徒も出てきました。「思わない」と答えた5人は3年生で、11月だと「就職試験が終わっていて、資格が使えないから」との理由で、そんなに消極的意見ではありませんでした。
■今後の課題と展望
今後の課題として考えなければいけないのは、まず補習(内容・進度・回数・時間帯)や家庭学習(時間)のあり方です。まず、補習の出席率が65%とあまりよくなかったことが挙げられます。朝が弱かったり、朝練がある生徒もいますので、全ての生徒のニーズに応えるのは難しいかなと感じました。また、不合格者の2名は、ほとんど出席しなかったことを考えますと、どのように補習参加への意欲を高めていくかが、課題と感じています。
生徒は資格取得対策として、合格に必要なポイントを効率よく学びたいと考えます。一方、教師は十分にテキストを理解して欲しいと願うものです。両者の思いに、どう折り合いをつけていくかもテーマです。
補習期間中の(N検の)家庭学習時間は、1日平均で約30分でした。家庭学習の習慣がほとんどない本校の生徒に、この手のアンケートをとると、家庭学習時間は0時間という結果が多いのです。こうしたことを考えますと、30分は注目すべき点です。
最後に今後の展望ですが、今回は首尾よくスタートできましたので、次回の検定に向けて現在準備を進めています。
参加者や上の級を目指す生徒を増やしていくために、告知の機会を増やし、教員間の連携も深めていく必要があると考えています。また、補習の出席率や合格者数を上げるために、補習内容や回数・時間帯を再検討する必要もあると考えています。時事問題への興味、関心をさらに広げるには、新聞はもちろん、他のメディアの活用も大切と考えています。雑誌ですと「Newsがわかる」(毎日新聞社)、「ジュニアエラ」(朝日新聞出版)、テレビなら「週刊こどもニュース」(NHK)、「学べるニュースショー」(ABC)や各種報道番組、ドキュメンタリーなどと授業の関連性を深める取り組みを進めたいと考えています。
単に知識を身につけるだけでなく、知識を自分のものにして考え、行動できる生徒を育てたいと考えています。残念なことに、投票に行かない若者が多いと言われていますが、時事的なことに関心を持っていれば、選挙に無関心ではいられないと思うのです。やはり棄権をするような生徒を育てたくないですよね。