2018年5月1日(火)毎日新聞朝刊
「今」を読み解く社会教養を身につける「ニュース時事能力検定試験」(NPO法人・日本ニュース時事能力検定協会、毎日新聞社など主催)は今年、延べ志願者が37万人を突破した。授業、試験対策、キャリアアップ、生涯学習のツールにと、小学生から社会人・シニアまで幅広い年齢層に人気を集めている。特に全国にある約400校の大学・短大、高校では、ニュース検定の成績が入学試験の合否判定に反映されている。また、初年次基礎教育や就職活動対策として取り入れる大学も増えている。
大学入学志願者の9割以上が入学でき、ほぼ「大学全入時代」を迎えた今日、学生の基礎学力不足が課題となっている。その一因として、若者の「活字離れ」「ニュース離れ」が挙げられている。
日本新聞協会の2015年全国メディア接触・評価調査報告書によると、「新聞を読んでいない」と答えた15~19歳は53・2%、「20代」は44・7%。若い世代の2人に1人は新聞を読んでいないことになる。また、全国大学生活協同組合連合会の17年学生生活実態調査によると、1日の読書時間について「ゼロ」と答えたのは53・1%と調査項目に入った04年以降で初めて半数を超えた。平均は23・6分で04年以降で最低。勉強時間の減少やテレビ離れを指摘する声もある。これらの結果、日本語力、論理的思考力の乏しさ、自主性や学習意欲の低下などが表れ、授業に深刻な影響を与えることもあるという。
さらに、普及したインターネットやスマートフォンで最近問題になっているのが「フェイクニュース」だ。「事実に基づかない、事実とは異なる情報やニュース」のことで、日本では16年の米大統領選で注目されるようになった。だまされないためには冷静に情報の真偽を見分ける力(リテラシー)が必要だ。
情報の「収集力」「分析力」「選別力」、それらを踏まえた「論理的思考力」の要素が、現代の若者に求められていると言える。
ニュース時事能力検定(ニュース検定)は、新聞やテレビのニュース報道を読み解いて活用する力(時事力)を養い、認定する国内唯一の検定だ。時事力とは、現代社会の出来事を多角的、公正に理解・判断し、その課題を解決していく礎となる総合的な力のこと。大きく変動し、先行き不透明な現代において、人生を切り開くために不可欠な力と言える。
ニュース検定の特徴は次の通りだ。
◇確かな出題=ベテラン記者や有識者らのチームが今を読み解くために必要なテーマを厳選し出題
◇バランスのとれたテーマ=「政治」「経済」「暮らし」「社会・環境」「国際」の5分野からバランスよく出題し、総合的な時事力を測る
◇力に応じた目標設定=難易度により6段階に分かれ、受検者の到達目標に合わせた受検が可能
◇着実な力に=受検者に結果通知を送付。全問題の正誤表や解答を基に復習や弱点克服が簡単にできる
◇学びやすい教材=全級に対応した公式教材(テキスト、問題集)を販売。授業でも自主学習でも使いやすく、「勉強方法が分からない」という不安を解消
自分で目標を設定できるため、学習の動機付けと無理のない着実なステップアップを実現できる。大学では「テキスト」と、テキスト購入団体に無料で届けられる「理解力アップシート」、「ニュース検定」のセットで入学前後の導入教育に利用するところが多く、学部・学科の1、2年生単位での団体受検が増えている。ほかに、時事問題を含んだ筆記や面接などの就職試験・活動対策にも役立てられている。
団体受検では割引料金や学内での受検が認められるなどの特典がある。ニュース検定全般の問い合わせは事務局(電話03・3212・5116)。
東洋大学法学部法律学科は2016年から、「法とジャーナリズム」の講座を設け、ニュース検定を受検させている。授業は1~3年生に毎日新聞社論説委員らが記事を使って講義していて、法律的な事象を身近にとらえて社会人としての基礎力をつけることを目的としている。検定はその力試しだ。井上貴也・法学部長は「法律の条文を自分なりに解釈して発信したり、時事情報を整理して自分で考える習慣をつけたりできる」と効果を挙げる。椿雅人・法学部教務課課長は「受講者は準2級以上の受検が必須で、成績に影響するので全員必死」と語る。
遠藤有矢さん(22)は2年前の3年生時、就職試験での時事問題対策として講座を受講した。幼い頃からヒーロー番組が好きで正義感が強く、警察官を含む公務員を志望していた。テキスト発展編で毎日コツコツと勉強。「面接で時事問題を聞かれても完璧に答えられると思った」という余裕と自信が功を奏したのか、見事に埼玉県庁に合格した。今春から夢の第一歩を踏み出し、「将来は政策提言などをして県民生活向上に貢献したい」と意気込んでいる。
「どこかで見たり、聞いたりした時事情報がテキストに一通り網羅されていて、そこから興味のある分野に深く導いていく。大学入学前後の勉強にはピッタリ」と推奨するのは、名古屋学院大学の小林甲一学長(59)。同大では現代社会学部が創設された2015年から、入学直後の1年生約150人を対象にした「現代社会入門」の授業でテキスト基礎編を活用し、ニュース検定も全員受検させている。
小林学長が授業でのテキスト、検定の導入を決めた理由は三つ。経済学、法学、社会学のいずれの領域も満遍なくカバーしている▽各テーマ項目の設定がよく、高校の復習から大学の勉強へとスムーズにつなげられる▽勉強の成果を検定で確かめられる――ことだ。学生アンケートでも「幅広く現代社会のことを知ることができる」「大学の勉強にすんなり取り組めた」など、授業の満足度は高い。
「学生には、言葉の力を磨き、想像力など目に見えないものと向き合う能力を高めてほしい」と語る小林学長。テキストと検定は今後も重宝していくという。